Sakana AIの「Sakana Namazu」、アイリスの医師向け検索ツール「Evidence Finder」に採用
Sakana AIは10月9日、日本語に特化した大規模言語モデル(LLM)「Sakana Namazu」が、東京の医療AI企業アイリスが提供する医師向けエビデンス検索ツール「Evidence Finder」に採用されたと発表した。AI Watch(インプレス)が報じた。同ツールは医師の質問を受けてPubMedなどのデータベースから文献を検索し、引用元を明示しながら回答を生成する。
両社の役割分担は明確である。アイリス独自の検索・検証アルゴリズムが質問ごとに関連文献を選び、比較・統合する一方、回答を生成する部分をSakana Namazuが担う。AIが引用した文献が実在するかを自動で確かめる「Verify」機能を標準搭載し、架空の参考文献を防ぐとともに、医師が一次文献に速やかにたどり着けるよう設計されている。アイリスは9月14日、Sakana AIのモデルを使うことで合意したと最初に発表しており、詳細なアルゴリズムは特許出願中で非公開だとしている。
採用は評価を経て決まった。Sakana Namazuを用いたEvidence Finderの評価用モデルは、2月に実施された第120回医師国家試験を解き、正解率96.4%(500点満点中482点)を記録した。アイリスによれば、公開情報から確認できる範囲で、経済産業省の生成AI開発支援プログラム「GENIAC」が指定する国産基盤モデルの中で最高得点にあたる。Sakana AIは、この結果に加え、実際の回答の定性評価で実務上の有用性が認められたことが採用につながったとしている。
実務で何が変わるか
試験の点数は注目を集めやすいが、重要なのは細部である。アイリスによると、製品版のEvidence Finderはテキストの質問にのみ回答し、医師国家試験で出題される画像問題には対応していない。今回の評価は、製品モデルに課している制約を外して本来の性能を測ったものだ。同社はまた、本サービスは医療機器ではなく、個々の患者の疾病の診断・治療・予防を目的としていないと明記している。医師にとっての実際の価値は、臨床判断の自動化ではなく、引用付きの文献検索を日本語で素早く行える点にある。
今回の採用で、Sakana AIは規制の厳しい分野での実例を得た。オーケストレーションモデル「Fugu Max」と「Fugu Ultra v2」の公開や、ユルゲン・シュミットフーバー氏のチーフ・サイエンティフィック・アドバイザー就任に続く動きである。医療分野で国産AI(ソブリンAI)の活用を促す政府の方針にも沿っており、アイリスはこれを「骨太方針2026」(経済財政運営と改革の基本方針2026)と結びつけている。病院でのAI活用はほかの形でも進んでおり、画像トリアージの運用ノウハウの共有もその一例である。
今後の焦点は、アイリスが実際の臨床現場での精度データを公表するか、ほかの医療ツールがGENIACの支援を受けた国産モデルを選ぶか、そして現在は対象外の画像問題にEvidence Finderがどう対応するかである。